ロジオンです。
今回は塩野七生さんの「ローマ人の物語Ⅵ パクス・ロマーナ」(文庫 だと14・15・16巻)の感想を整理してみました。
【感想】
カエサルの後継者で、ローマ帝政の創始者であるアウグストゥス(オクタヴィヌアス)が政権を手に入れてから死ぬまでの物語となっています。学生時代に初めて読んだときは退屈な印象があった・・のですが、社会人になってから読むと色々考えさせられながら読むことが出来ました。ただアウグストゥスは政治家として超一流ということは分かりましたが、やっぱり人間性はあまり好きにはなれないですね・・。
以下に気になった場面や言葉を整理していきます。
・皇帝制度
-Imperator Caesar Augustus Tribunicia Potestas
(インペラトールにして護民官特権の保持者カエサル・アウグストゥス)-
事実上の絶対権力者となったオクタヴィヌアスは共和制復帰を宣言しますが、実際は巧妙に帝政へと移行していきます。
ー所有しつづける意味も効力もなくなった権利を返還し、それで喜ばせておいて、代わりに一見意味も効力もあまりなさそうな、しかし将来への布石としては大変に重要な権利を取得する、というやり方ー
ー一つ一つならば完璧に合法でありながら、それらを連結していくと、少数指導制のローマ型共和政体下では非合法とするしかない、帝政に変わるというやり方ー
以下がオクタヴィヌアスが得た権利。
②「第一人者(プリンチェプス)」:元老院が送った称号
③アウグストゥス:尊称 (権力臭が無いが、それゆえに体制から超越する)
④インペラトール:元々は勝戦の将に兵士たちが送る呼び名。実際はローマ全軍の終身最高司令官
⑤護民官特権:肉体上の不可侵権及び拒否権
東洋(中国など)の皇帝とは見た目は全く違いますが、元々共和制の国から円滑に体制を変えるには適したやり方だったのだと理解しました。
たとえ急激な改革だとしても、既得権益者(元老院)の顔をしっかり立ててやりながら進めれば、意外とスムーズにいくものなのかもしれません。実際にやろうとするとバランスが難しいのですが。。
再編成された軍事制度の概略は以下です。
目的は征服ではなく防衛
→ 財源確保と兵士労働条件確保
この大方針は数百年継続したことを考えると、目的とそれに対する手段など「全体構想」とはこういうものをいうのだ・・とあらためて感心しながら読みました。
・自己分析及び自己制御、苦手な分野は他人に任せる
虚弱体質 → 見栄をはらずに無理はしない。
軍事は苦手 → 片腕のアグリッパや義理の息子に一任。
文章は苦手 → 文化・芸術分野はもう一人の片腕であるマエケナスに一任
自分に欠点があっても、それを適切に認識して代替手段を見つける・・というのは当たり前のようで、現実生活の中では意外と難しいように感じます。
・血統への妄執
読んでいて唯一悲しくなってしまう部分です。後継者に自分の血統を重視してしまう・・というのは、どれほど優秀な人でも逃れられない感情なのかな~と感じます。自分の構築した皇帝制度はあくまでも元老院や市民からの支持によって成り立つものなので、血統にとらわれず優秀な人物に引き継がなければ務まらないのですが。
・-自身にとっての利益と共同体の利益が合致するくらい、人間にとっての幸福はないのである。-
-「平和」は唱えているだけでは絶対に実現しない。-
文庫のカバーについての説明文に書かれている言葉ですが、たとえ偽善であってもその偽善がみんなのためにもなるなら、尊いことなのかもしれません。 ただアウグストゥスは頭で考えると卓越した人間ということは分かるのですが、どうも冷たい感じがしてあまり好きになれないんですよね~。。
今回は以上です。