ロジオンです。
今回はジャレド・ダイアモンド博士の「銃・病原菌・鉄(上)」(草思社文庫 倉骨彰さん訳)の感想を整理してみました。
文明・富・軍事力などの地域間の差がなぜ生まれたか、様々なジャンルの学問・知見からダイアモンド博士の考え方を整理した本です。
大きな感想から言えば、かなり濃くて一部難解な内容があるものの、読みやすくそれなりの納得感も得られるので、個人的には面白かったし勉強になりました。専門外の人には自分の考え方をこういう風に伝えると良いんだ、というお手本のような印象も受け、理系の人には本当にオススメです。
冒頭から出てきますが、地域間の差がついたのは人間そのものの差ではなく、環境による影響が大きい、ということを訴えることも目的のようです。日本だとそうでも無いのでしょうが、欧米だとまだ人種間の生物学的差異が欧米の優位さを生んでいると信じている人が多いのでしょうか・・。
以下は自分用の備忘メモとして。
1) ポリネシアでの分かれ道
ポリネシアでは「同じ人種」が移り住んだ各島の「環境」でどのように発展してきたかを示す良い例。
→大きく複雑な島では首長制度で大きな政治単位となったのに対し、農耕も出来ない島では狩猟採集生活に逆戻りした・・等。
2) ヨーロッパ勢が他地域を侵略できた主要因
①銃器・鉄製の武器・防具などの装備。騎馬戦術。
②天然痘などの病原菌(ヨーロッパ人は免疫あり)
※人の侵攻より病原菌が広まるスピードの方が速い。
※熱帯では、逆にヨーロッパ人が免疫を持っていない病原菌で侵攻が遅延
③艦隊・軍隊を他地域に派遣出来る政治体制・航海技術。
④情報量や、周囲との関わりによる「疑ってかかる習慣」
※新世界ではあまりにも簡単にスペイン人に騙されている
3) 食糧生産・農耕
(1)食糧生産開始の時間差が運命を左右
動植物の栽培化・家畜化
→面積あたりのカロリー生産が狩猟採集より多い
→多くの人口を養うことが可能
→定住生活可能。余剰食料貯蓄
(家畜から移る病原菌への抵抗力醸成)
→食料生産以外の専門職:王・貴族・僧侶・技術職・軍人etc
→制服戦争が可能
(2)食糧生産を始めるかどうか
・狩猟採集民は段階的に食糧生産を発展させた
・食糧生産を始めなかった人たちもいる。
(時間と労力の配分、価値観)
・食糧生産移行の要因は以下の5つの視点で議論される
①自然資源(主に大型哺乳類)の減少
②栽培可能な野生種の増加(気候変化)
③食糧生産の技術・ノウハウの蓄積
④人口密度の増加と食料生産の増加が双方向の関係
⑤食糧生産した民族のほうが軍事的に優位
(3)野生種から栽培種へ
・突然変異→有用なものを選抜栽培
(4)食糧生産開始時期の地域差は野生種の違い
・食糧生産に適した野生種は限定される
・メソポタミア(肥沃三日月地帯)の優位性
①地中海性気候:湿潤な冬と長く乾いた夏
→夏に枯れる一年生植物(子孫を残すため種子にエネルギー)
②農作物として育成出来る野生種が豊富
全世界のイネ科最優良野生種の大半が集中。
全8つの起源作物:エンマーコムギ、ヒトツブコムギ
大麦、ヒラマメ、エンドウ、ヒヨコマメ、
オオヤハズエンドウ、亜麻。
③自殖性植物が多い→突然変異が持続しやすい
④起伏に富んだ地形:高地と低地で収穫を分散
(5)家畜に関して
・家畜化出来ない動物にはそれぞれの理由がある
・大型哺乳類で家畜に出来たのは14種のみ
そのうち全世界で飼われたのは牛、羊、山羊、豚、馬の5種
・西南アジアでは14種のうち7種が生息。
→ユーラシア大陸以外は家畜化可能な動物があまり生息せず。
・家畜化出来ない理由は以下。
餌、成長速度、繁殖、気性、パニック、集団形成
(5)大地の広がる方向
・東西に長いユーラシアは食糧生産が伝播しやすい。
・南北に長いアメリカ・アフリカは食糧生産が伝播しにくい。
(地理的な障害物や、気候の差異など)
4) 病原菌
・集団感染症は農業・都市の勃興で発生。交易で更に拡大。
(排泄物・汚水など衛生環境の悪化→病原菌・寄生虫の繁殖環境)
・動物由来の病気→人間だけがかかる病気に進化
・遺伝による自然選択で集団の病原菌に対する抵抗力は向上。
免疫システムで一度かかった病気にはかかりにくい。
→新世界の人間は免疫・遺伝的抵抗力無く、旧世界の病原菌が大流行
(征服の前に、病原菌で人口が大幅激減)
下巻までまとめて書こうかと思ったら、長くなったのでこのあたりで一旦止めておきます。また時間あれば下巻に関しても整理します。
今回は以上です。